入門・おせち料理 〜手作りにおける重箱のデザインパターン

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様々な食文化が混在する現代日本において、おせち料理の存在感は年を追うごとに薄れているのではないか、と感じることがあります。

しかしそんなことはどうでもよく、とにかく正月なので気分的におせち料理を手作りしてえという私や、私のような料理好きのために、おせち料理を成功に導くためのデザインパターンを本記事にまとめておきます。

 

手作りのおせち料理には様々な落とし穴があり、その一例として、

  • 作るのに時間がかかりすぎて食べたいタイミングに間に合わない
  • 作り慣れていない、普段は食べないものが多く、評価もイマイチ
  • 作ったはいいが盛り付けに困る。見栄えが微妙になる

など、料理に慣れている人でも意外と課題を抱えがちです。

 

そのような課題に対して、本記事が解決の一助となれば幸いです。

(「デザインパターン」というのは気分でオライリーの書籍っぽくしたかったので適当に言っています。無視してください。)

 

また、本記事の著者は、どこにでもいる素人の料理好きであり、料理人でもなければ料理研究家でもありません。おせち料理を手作りするのも、まだ今年で3年目です。

掲載している写真は著者が作ったものですが、まだまだ改善の余地が多く、そのために一度、このようにアウトプットしているという事情もあります。 

 

 

目次

 

前提条件

本記事が想定する手作りのおせち料理とは、

  • 家庭的かつ素人の自己満足レベル。商用利用は考えていない
  • 1〜2人から4〜5人前後に対して振る舞うボリューム
  • 伝統やマナーは、あくまで雰囲気だけ守るかもしれない

という感じです。

何か重い日本の伝統でも背負っていたり、ジャパニーズ・トラディッショナル・オセチ・クッキングをしたい人は、日本料理屋に修行にでも行ってください。

 

あと、料理を全くしない、例えば目玉焼きや野菜炒めも作ったことがないレベルの人には、ちょっとハードルが高いです。

とはいえ一年ぐらい習慣的に料理をしていれば無理ないレベルとも思うので、これから料理を学ぶ人も一年後を目指して頑張ってください。

 

要件定義(基本設計)

おせち料理を手作りする目的は何ですか?

手作りする目的が見いだせない人はプロに注文しましょう。

人により目的は様々ですが、

  • 【1】手作りで家族などを驚かせたい、喜ばせたい
  • 【2】手作りのプロセスを楽しみたい、自己満足したい
  • 【3】インスタ映えしたい、自慢したい

などがメジャーなところでしょうか。

 

どれも素晴らしい目的ですが、本記事では【2】の優先順位を最も高く持ち、次に【1】の優先順位を高く持つことにします。(私がそうだからです。)

そうした場合、まず考えるべき項目の目安を下記に示します。

  • 予算 ⇒ 大きく制限しない。食材費は10,000円ぐらい
  • 品質 ⇒ そこそこの美味しさと見栄え。プロ級は努力目標で
  • 納期 ⇒ 振る舞う相手が食べたい時間には間に合わせる

で、納期まではいくら時間を使おうと気にしないものとします。(趣味なので。)

 

以降、このレベルを目標として本記事ではおせち料理を手作りしていきます。

 

より制限された状況下であることも多々あるでしょうから、その場合は各自チューニングしてください。

一つ書いておきたいのは、【3】の優先順位を最も高く持ち、かつそれを満たすことが必須である場合、一年程度の料理経験では困難であることが予想されます。

相当な努力を重ねるか、二〜三年程度は習慣的な料理経験が必要ではないでしょうか。(知らんけど昨今のインスタグラマー等の映えレベルは相当に高いので。)

 

要件定義(詳細設計)

詳細設計の流れは大きく2つに分かれます。

  • 【1】ヒアリング
  • 【2】メニューの立案
  • 【3】スケジュールの立案

です。(これ全く「詳細」設計じゃねえよな。)

 

【1】ヒアリング

まずはおせち料理を振る舞う相手にヒアリングをします。

おせち料理には好き嫌いやアレルギーに関わりやすいメニューが多いのでヒアリングは重要です。

 

振る舞う相手の人数・年齢層の分布によって、作るボリュームや調理の加減をコントロールする必要があるのは勿論ですが、ことおせち料理においては、

  • 魚卵系が問題ないか ⇒ 数の子・いくらなどのメニューに関わる
  • 小魚や魚介類に苦手はないか ⇒ 田作り・海老などのメニューに関わる
  • ゴボウや芋類の硬さの調節 ⇒ お年寄りには特に柔らかいものを

などの要素が後工程であるメニュー立案のカギになってくるでしょう。

 

ヒアリングを通して要件を明らかにし、振る舞う相手の笑顔が見れるよう準備を進めましょう。

 

【2】メニューの立案

おせち料理では、おせち料理でしか食べないんじゃねえかというメニューが半数近くを占めることになる上に、10品目〜以上のメニューを短期間で用意する必要があります。

そのため、事前にどのようなメニューが存在するかを調べ、メニューを立案し、レシピをストックし、材料をリストアップしておくことが肝要です。

この工程は完全にクリティカルパスなので、重要視してください。

 

まずメニューの検索について、特にアテが無いという方にはキッコーマンのレシピサイトが、ちょっとお薦めです。

ホームクッキング | キッコーマン

 

年末が近くなると、おせち料理の特集をやっているはずなので見てみてください。ここで紹介されているレシピはシンプルで無理なく作れるものが多く、おせち料理の特性において有用なものが多いです。

慣れてきたら、もっとややこしいレシピを参照しても良いと思いますが、最初はこのぐらいが丁度いいでしょう。

 

で、何を作るか凡そ決めたら材料・レシピURL とともに、それを下図のようにスプレッドシート(エクセル的なもの)にまとめておきます。

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こうすることで事前の買い出し(調達)もスムーズにいくというわけです。

 

上図に「口取り」「焼き物」などのカテゴリが設定されていますが、これは、おせち料理を少し詳しく知りたい人は調べてもらえればという感じです。

メニュー立案の柱として「口取り」「焼き物」「酢の物」「煮物」「熱物」をバランスよく用意しますが、まあ最初は食べたいものを何となくセレクトしていっても良いかなと思うので。

特に定番の中でも作りやすくオススメなのは、

  • なます系
  • 魚卵(数の子 / いくら / 明太子)系
  • 焼豚系
  • 筑前

とかですかね。 

ちなみに用意する品目の目安は、

  • 1〜2人用:8〜10品目前後 / 重箱 2段
  • 3〜4人用:10〜12品目前後 / 重箱 2〜3段
  • 5〜6人用:12〜14品目前後 / 重箱 3段〜以上

ぐらいだと十分かと思います。

まあこれあくまで目安だし各々の品目のボリュームにもよるんで、そこまで参考にならないかもです。

 

【3】スケジュールの立案

晦日の31日にフラッと買い物に行くだけで立派なおせち料理を作れるのはベテランやプロだけなので、素人には計画的なスケジュールの立案が必要です。

大凡の目安として、

  • 12月28日まで:メニューの立案までを終わらせておく
  • 12月29日:一日目の買い出し(日持ちするもの / 重いもの / 飾りなど)
  • 12月30日:二日目の買い出し(日持ちしないもの)と仕込み
  • 12月31日:料理(調理)の90% 以上
  • 1月1日:料理(調理)の残りと盛り付け ⇒ 提供

ぐらいで見ておけば間違いないのでは、と思います。

 

まず当然ですが、元旦の前日に殆どの料理は終わらせておきます。(その仕込みは元旦の前々日です。)これはおせち料理の風習と関わりがある…それも、あるっちゃあるんですが、もう一つの理由はもっと現実的です。

殆どのスーパーは31日までは営業しているはずですが、1日に営業していないスーパーは多く、1日に料理をしていて万が一の何かしらがあった場合、1日では食材の調達が不可能となるかもしれないからです。

 

また、31日の料理(調理)の所要時間は目安として、3〜4時間前後ぐらいになるでしょうか。初心者かつ品数が多い場合、5〜6時間は余裕を持って見ておくと良いと思います。

そのため、大掃除を31日に残すのは絶対にやめましょう。特に慣れていない初心者の場合、死にますよ。体力的にキツいです。

 

買い出し(調達)

買い出しは基本的に一日目と二日目に分けます。(俺は力持ちだし車もあるし、なんか余裕な気がするという人はべつに一回でもいいんですが。)

 

一日目(日持ちするもの / 重いもの / 飾りなど)

例えばどんなものを買うかというと、

  • 里芋 / さつま芋 / 大根など、重くて多少は日持ちする食材
  • 出汁用の昆布や鰹節、醤油や味醂などの調味料が切れている場合
  • その他、たまたま見かけて買おうと思ったレアな食材
  • 笹の葉 / 南天などの飾りもの

とかですかね。

まあ、必要かつ多少は日持ちするものはここで殆ど買っておきましょう。

「スケジュールの立案」では30日と書いていますが、もうちょっと前でも全然かまわないです。

 

ちなみに、スーパーは当然ながら夕方の手前からめちゃくちゃ混みます。行けるのであれば、午前中〜午後イチぐらいまでに行くのがベストなんじゃないですかね。夕方以降に行っても目当ての食材が得られない場合がけっこうあるんで、ご注意を。特に、おせち料理で需要が高い牛蒡や大根、鰤や海老などの魚介類などは普通に売り切れます。

 

もちろん取り寄せなどで(豪華な)食材を通販するのもアリです。

私の場合、鰤(ぶり)が好きなのに年末は売り切れることも多いので、鰤は取り寄せの対象だったりします。美味しい鰤が食べたいですしね。

 

二日目(日持ちしないもの)

ここは殆ど書いた通りなんですが、

  • 肉類や魚介類などの日持ちしないもの
  • 一日目で買いそびれたもの

とかを買ってきます。

どうせ一日違いなんで、日持ちしないものに関しても一日目で買っちゃえよという意見には反対しないですが、そこは気持ちの問題もちょっとあるかなあ。

 

ちなみに買い出しの予算について。

私の場合、3〜4人用のおせち料理の食材にかける予算は12,000円前後が平均になっていると思います。

これはそこまで贅沢をせず、かといって節約もせず、といった中間のラインで食材を揃えると、大体そんな感じになるんでは?と思います。

派手に贅沢な食材を揃えると2〜3万円は余裕でいくと思いますし、切り詰めれば5〜6千円前後まではいけるんじゃないすかね。(勿論どのレベルから食材や調味料を揃えるかでピンキリ。)

普段、あまり料理をしない人が知らないかもしれないのは、おせち料理では定番の蒲鉾(かまぼこ)・数の子・栗などが思ったより高く感じるというところかもしれません。

 

この通り、多くの人にとって、おせち料理の食材費は馬鹿にならないはずです。

手作りにかける料理の時間も換算すると、コストという観点からはメリットがあるかどうか甚だ疑問です。私は外注を真剣に検討したことがないので分からないのですが。

 

料理(調理)

さて、やっと料理の工程に入ります。ちなみに、この料理の工程に入るまでに既に4,000文字以上も書いていて、馬鹿なんじゃねえか私は?と思い始めました。

 

まず、メニューの一例を下記とします。

  • (1)【口取り】伊達巻
  • (2)【口取り】たたきごぼう
  • (3)【口取り】数の子土佐煮
  • (4)【焼き物】車海老の塩焼き
  • (5)【焼き物】焼き豚(チャーシュー)
  • (6)【酢の物】紅白なます
  • (7)【煮物】筑前
  • (8)【熱物】何らかの味噌汁や雑煮など好きにしてください

解説しやすいよう、少なめにしました。

 

この例では、元旦の当日に料理するのは(4)(8)ぐらいです。むしろ(4)も前日でもいいぐらいですし、(8)も当日は仕上げだけでいいですね。車海老の塩焼きは焼き立ても美味しいからなあ…という気持ちの問題です。

 

前々日の仕込み

他は全て元旦の前日に料理を済ませておくわけですが、中でも前々日から仕込んでおきたいのが(3)(5)ですね。数の子は塩抜き、焼き豚は漬けておきたいので。

 

あと意見が分かれるところでしょうが、この時点で出汁を用意しておいてもいいと思います。(私は、この時点では用意しません。)

和食ベースのおせち料理では大量の出汁を消費するので、あらかじめ必要になりそうな出汁の量は計算しておきましょう。前述のメニュー例では、合計で1リットル程度あれば足りそうですが、実践では1.5〜2リットルぐらいは必要になるイメージです。

私は面倒だし好みなので、昆布とカツオで一番出汁を取り、全ての料理に同じものを使います。熱物に煮干しの出汁を使いたい人は分けて取ればいいんじゃないすか。

 

前日の料理

元旦の前日の料理では、あまり時間がかからない(1)(2)(6)辺りからサクサク作っていき、その合間などで他のメニューの準備を進めつつ、最後は洗い物をしながら(5)(7)の煮込みを待つ流れになると無駄なく美しいですね。

 

レシピや料理自体のコツについては私が何か言えたようなものではありませんが、

  • 不慣れなものはレシピ通りに計量する
  • どの味で楽しみたいか意識する
  • こまめに味見をする

これは手作りの料理における基本中の基本ですが、おせち料理では更に大事だと思います。

 

おせち料理では、和食ベースかつ大量の品目を用意するので、同じような味付けのものを一度に提供されると食べ飽きてしまうといったインシデントが発生します。

前述のメニュー例では、食材自体の持つ旨味を抜きに考えると、

  • 伊達巻 ⇒ 砂糖の甘味
  • 車海老の塩焼き ⇒ 塩のみ / 超シンプルな味付け
  • 紅白なます ⇒ 酢の酸味

例えば、この辺が良いアクセントになって、品数が多くても食べ飽きないんですよね。

こういったデザインパターンを取り入れることで、成功に近づいていきましょう。

 

料理(盛り付け)

おせち料理の盛り付けにも、ルールやマナーというものが存在します。

内心ではルールなマナーなんて知ったこっちゃない私ですので、あまり詳しくは知りませんが、例えば「陛下」レベルのやんごとやき相手に振る舞う予定のある方は勉強しておいたほうがいいです。

御節料理 > 組重 - Wikipedia

 

まあ一般庶民を相手にする場合、基本的には重箱のようなものを用意し、田の字に詰めるか・斜めに詰めるか、ですね。

真ん中に小さな器を置くと手っ取り早く見た目が安定します。あとは仕切りとなる板やアルミカップ的なものは最低限、用意しておきましょう。

私の場合は元旦の当日に盛り付け、そのまま提供するので、基本的に重箱に蓋をするという概念はありません。盛り付けでも、ある程度は高さを出したいので、蓋の存在は忘れています。

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盛り付け方は「おせち 盛り付け」とかで検索するといくらでも参考が見つかるので割愛しますが、おせち料理の特徴として「緑色が少なくなりがち」という難点があります。

そこは事前の買い出しで、

  • 笹の葉 / 南天 / ばらん…etc などの飾りを用意しておく
  • 三つ葉 / 絹さや / 大葉…etc などの食べれるやつも用意しておく

などでカバーしましょう。(運用でカバーというやつですね。)

 

また、せっかくの機会なので飾り切りに挑戦するのも良いと思います。

入門として、蒲鉾の飾り切りは簡単なのが多いです。

一正蒲鉾株式会社 - かまぼこの飾り切り動画

 

飾り切りには見栄えを良くする・華やかにするという効果があり、それも馬鹿にできませんし、もう一つ、煮物などを作る際に煮崩れを防ぐ・味の染み込みを良くするという実用的な効果もあります。

やり込み過ぎると、かなり時間を消費するので、最初は1〜2品目に絞ってチャレンジするだけでも、思ったより大きな効果が得られると思いますよ。

 

提供

正直、ここに書くことは特に無いのですが。配膳して、デプロイ…ではなく提供は完了です。

頑張った貴方は必ず、「食べるの勿体ない」と思うはずです。ひな人形のように観賞用に飾っておくというのも一興ですが、振る舞う相手がいる場合は残酷なので、さっさと食べましょう。

 

その前に、写真は必ず撮るべきです。成果物をドキュメントとして残すことの重要性は今さら言うまでもありませんが、毎年の記録を重ねて成長を楽しむというモチベーションへの影響も計り知れません。

おせち料理は作ったら食べてしまうものなので。

 

さいごに

顧客が本当に必要だったもの、は完成しましたか。

本記事では冒頭に書いた優先順位の通り、一番の顧客は自分自身でもあります。

そのため本来のおせち料理の目的の一つであった、元旦に楽をする、保存食としての一面は基本的に無視しています。

 

それでもこの有様で、おせち料理の手作りは基本的にハードモード・クッキングでありハイコストきまわりないという一面もあるのが分かって頂けたかと思います。

そのコストに見合ったリターンを得ることができるかどうかは、本記事でも紹介した要件定義の工程にかかっているとも言うことができ、古き良きウォーターフォールの滝の流れが横山大観水墨画のように美しく流れた時、最高のおせち料理が完成するのではないでしょうか。

おせち料理の特性上、アジャイルはウルトラハードモードだと思います。)

 

何を言っているのか分からないと思いますが、私にも分かりません。

おつかれさまでした。