「天才」の定義と証明に迫る漫画「はねバド!」が面白すぎる

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ー 引用:漫画「はねバド!」 / 濱田浩輔(著)/ 株式会社 講談社

 

漫画「はねバド!」が、めちゃくちゃ面白い。

最近、読んだ記憶があるスポーツ漫画の中でも断トツに面白いし、これはタイプ的に「スラムダンク」に迫る面白さだと本気で思う。

 

漫画「はねバド!」は、「天才とは何か」を繰り返し問う。

そして「自らが天才であると証明するとは、どういうことなのか」というテーマに、親子関係とバドミントンを通して迫っていく。

 

この記事では単行本の最新巻(14巻)で読める部分までの感想と、「はねバド!」で描かれる「天才」について書いていきたいと思う。

 

目次

 

あらすじとか

主人公の羽咲綾乃は高校一年生。バドミントン女子シングルス全日本総合優勝10連覇という成績を残した羽咲有千夏を母親に持つサラブレッドだ。

そして、少なくとも物語の序盤では紛れもない天才として描かれている。

そこそこ資産がありそうな老舗の和菓子屋が実家であり、何不自由なく(?)育ってきた羽咲綾乃は、ぼーっとしていて、周囲に甘やかされながら生きてきた。

唯一の取り柄であったバドミントンも中学で辞めてしまった。

そんな羽咲綾乃が高校に入学し、熱血コーチやライバルとの再開などを通して、再びバドミントンに向き合っていく。そして精神的に成長していくという話だ。

 

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ー 引用:漫画「はねバド!」 / 濱田浩輔(著)/ 株式会社 講談社

 人生を舐め腐っている主人公の羽咲綾乃。

 

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ー 引用:漫画「はねバド!」 / 濱田浩輔(著)/ 株式会社 講談社

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ー 引用:漫画「はねバド!」 / 濱田浩輔(著)/ 株式会社 講談社

 しかし、段々と本性を表し始める。

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ー 引用:漫画「はねバド!」 / 濱田浩輔(著)/ 株式会社 講談社

 そして、こうなる。

 

こんなものは序の口で、序盤〜現在にかけての主人公の変貌ぶりは凄い。基本的な人格こそ変わっていないと感じるが、表現の幅が大きい。

コミカルな二頭身レベルで表現されることも多かった序盤から、別人としか思えない5巻〜の凶悪な表情まで、羽咲綾乃は二面性を持った非常に魅力的なキャラクターとして描かれている。そこが、この漫画の大きな魅力に繋がっている。

 

そして羽咲綾乃だけでなく、その他の登場人物についてもキャラクターの描き分けが明確で、読んでいて気持ちが良い。

特に「天才」と称される三人の登場人物は生い立ちがハッキリと描かれ、天才と呼ばれるが故の苦悩や葛藤などもキャラクター毎に描かれている。

 

三人の天才たち 

この漫画には三人の天才と呼ばれるキャラクターが登場する。

一人目は言わずもがな、主人公の羽咲綾乃だ。

自称天才とか、ある一点のみに秀でた天才という感じではなく、少なくとも物語の序盤では、羽咲綾乃はバドミントンの天才として描かれる。

ライバル達がどんなに努力を重ねても、それを軽々と凌駕する能力の持ち主であり、試合中は何をするか分からない、正体不明なキレたキャラクターの雰囲気も纏っている。

 

二人目デンマーク出身ながら日本の高校に留学してきたワールドクラスの天才、コニー・クリステンセン

コニーは羽咲綾乃と義理の兄弟(?)という設定になっていて、羽咲有千夏のことをママと呼ぶ。

恵まれた体格とバドミントンのスキルに加えて容姿端麗なコニーは、既にプロの世界でも実績を残し始めている、いわば天才中の天才として主人公や他の登場人物の前に立ちはだかる。

どうでもいいけど、このキャラクターは、かなり「新世紀エヴァンゲリオン」の惣流・アスカ・ラングレーと被りますね。

 

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ー 引用:漫画「はねバド!」 / 濱田浩輔(著)/ 株式会社 講談社

 

三人目はインターハイ出場選手の中でも三強と呼ばれる有力選手グループの一角である、益子泪(ましこるい)

羽咲綾乃と同様に家族の影響からバドミントンを始め、幼い頃から国内で実績を残し続けてきた益子泪は、自らが天才と呼ばれることに最も悩み続けてきたキャラクターとして描かれている。

身長が高く、身体能力も抜群で、左利きである益子泪には、ほとんど目立った弱点が存在しない。しかも若干グレており、羽咲綾乃とは違った意味でキレた人物である描写が多いのが特長だ。

 

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ー 引用:漫画「はねバド!」 / 濱田浩輔(著)/ 株式会社 講談社

 

こんな感じで「はねバド!」には、主人公だけでなく他にも天才と呼ばれるキャラクターが二人も登場する。

そんなに沢山いたら天才の有り難みが…みたいな話なんだけど、この三人の天才が絡み合ってストーリーが進行していくところに、この漫画の最大の魅力があるんだな。

と、個人的には思っている。

 

天才の定義とは

そもそも天才とは、何なんだろうか。

例えばアインシュタインノイマンなどの世界的・歴史的な人物だけでなく、学校のクラスや部活に、様々なジャンルのスポーツ・アートの現場に、周囲から天才と呼ばれる人が一人はいたりするもんだと思う。

 

彼らに共通しているのは凡そ「並大抵の努力や財力などでは手に入れることができない頭脳・身体能力・スキル等を持っている」ということだ。

英語圏では「gift(ギフト)」を「才能」と訳すことがあり、それはまさに「天(神)からの贈り物」というわけである。

 

はねバド!」の作中でも、この天才の定義について触れられている決定的な一コマがある。

 

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ー 引用:漫画「はねバド!」 / 濱田浩輔(著)/ 株式会社 講談社

 

努力の及ばない領域…これを仮に"才能"と呼ぶなら

先天的な体の大きさや強度こそ"才能"と呼ぶにふさわしい

 

ー 引用:漫画「はねバド!」 / 濱田浩輔(著)/ 株式会社 講談社

 

この「先天的な体の大きさや強度」こそが、バドミントンにおける才能と呼ぶべきものであり、だからこそ高身長かつ身体能力の高いコニー・クリステンセンや益子泪は天才と称されている。

 

ちなみに私は高校バスケットボールの経験者だ。

県内の大会では何連覇もしているような強豪校で本気でバスケットボールをしていたこともあり、個人的にも、この定義には納得してしまう。

黒子のバスケ」の紫原敦が言う通り、バスケットボールは「デカさと破壊力がある奴が勝つ欠陥競技」という側面が確かにあるので。

 

羽咲綾乃と、天才の証明

実は、天才と呼ばれていたはずの羽咲綾乃の身長は、とても低い。

ヴィゴ・キアケゴーに弟子入りを申し込みに行った際にも、はっきりとウイングスパンの短さが致命的であるという指摘を受けている。

 

なるほど、主人公の羽咲綾乃は、実は天才ではなかったんだ。

この辺で読者の誰もが気づく感じになっている。

 

しかし、例えそうだとしても、羽咲綾乃は上を目指すことを諦めない。

全国の猛者が集まるインターハイでも一番を目指すことに対する強い意志を見せ、ヴィゴ・キアケゴーとの厳しい練習に励んでいく。 

 

何故、彼女は上を目指すのだろうか。どうして一番にならなければ、いけないんだろうか。

それは彼女にとって、頂点に立つこと、誰にも負けないこと、そして「天才と呼ばれること」が、母親である羽咲有千夏との繋がりの証明になるからである。

 

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ー 引用:漫画「はねバド!」 / 濱田浩輔(著)/ 株式会社 講談社

 
母親の羽咲有千夏は数年ほど、主人公の羽咲綾乃の前から姿を消してしまっている設定から、この漫画はスタートする。

しばらくの間、父親に育てられた羽咲綾乃は母親の愛情に飢えており、自分がバドミントンの試合で負けたから、母親が自分の前から姿を消したと思っている。

また、そんな状態だった羽咲綾乃の前にワールドクラスの天才、コニー・クリステンセンが現れる。

コニーは綾乃を「お姉ちゃん」と呼び、有千夏を「ママ」と呼んだりするものだから、その事情が全く分からない状態である綾乃はパニックだ。

自分は母親に捨てられ(たと思っている)、その母親がバドミントンにおいて才能も実績も確かなコニー・クリステンセンの母親になっていた…?

普通に考えてパニックでしょう。

 

しかし、そこから羽咲綾乃の真の戦いが始まる。

全日本総合優勝10連覇という偉業を成し遂げた母親の羽咲有千夏は、控えめに言っても天才としか言いようがない。

 

その母親との血の繋がりを、自分こそが羽咲有千夏の子供であると、母親の愛情に飢えた羽咲綾乃は証明しなければならない。

自分は母親に捨てられてなんかいないとでも言うかのように、インターハイ優勝を目指していく。

 

結局それが、羽咲綾乃の、そして「はねバド!」の、「天才であることを証明する」ということ…なんじゃないかと思って読んでる。

英語圏では「天(神)からの贈り物」かもしれないけど、科学的には才能ってDNA、つまり「親から受け継がれてくるもの」なんですよね。

だからこそ彼女は勝ちたいのだ。そして自分が天才だと証明するのだ。

 

その他の魅力的なポイント

この漫画はスロースターターというか、1〜2巻の辺りでは、その魅力を感じきれない部分があると思っている。

スポーツでは肉体面の体格や能力だけでなく、精神面も非常に重要であるというスタンスの漫画なので、主人公が精神的な成長を見せ始める5〜6巻以降から、めちゃくちゃ面白くなってくると感じる。

中でも特に9巻がハイライトというか、この巻で私は「はねバド!」という漫画が本当に好きになった。

 

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ー 引用:漫画「はねバド!」 / 濱田浩輔(著)/ 株式会社 講談社

 

なんか、もう、この表紙を見るだけで少し泣きそうになる。

9巻では積年のライバルである芹ヶ谷薫子との対話によって、主人公が「本当の自分」を見つめ直す場面が描かれている。

 

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ー 引用:漫画「はねバド!」 / 濱田浩輔(著)/ 株式会社 講談社

 

こういった人と人との関係性・各々の間にある物語が丁寧に描かれているのも「はねバド!」の魅力だ。

殆どのメインキャラクターには各々に繋がりの深い友達が存在していて、その友達との対話やバドミントンを通して各々が思い悩んでいく感じの青春群像劇が、色んなポイントで展開される。

だから誰が読んでも感情移入しやすいキャラクターが存在するはずで、逆に言うと主人公に感情移入できる人は、そんなに多くないと思う。

主人公は偏った性格の天才なので。

 

ざっくりまとめ

以上が、「はねバド!」の現時点での感想だ。

ざっくりまとめると、この漫画は、

  • 天才とは何か
  • スポーツにおける精神面の重要性
  • 友達やライバルとの青春

を主に描いていて、バドミントンというスポーツ自体にそれほど興味がなくてもスラスラと読めるようになっている。

 

今やっているスポーツ漫画だと、こちらも大人気の「アオアシ」とも、けっこう近いテーマの話かもしれないと思う。ただ、「アオアシ」の方がもう少しテクニカルで、サッカーファン向けなのかな、とも感じるけど。

 

大変に面白い漫画なので、大変にオススメです。