WEB・IT フリーランスになる前に読んで欲しい、ビジネス基本の「き」

独立しようとする人達は、まず今から自分が何をしようとしているのかを、冷静に見つめ直すところから始めるべきだ。

貴方はこれからデザインの仕事を請け負ってデザインをしたり、ソフトウェア開発の案件を受注してコードを書くのではない。

 

 
目次

 

独立するということ

今まさにPC 一台で独立しようというWEB・IT 系の、特に制作・エンジニアの人々と接する機会が最近、続いた。

かくいう私も27歳ぐらいの頃、なりゆきで独立してから3年ほどWEB 制作系のフリーランスを続けた経験がある。私の経歴的なものは、この記事に書いた。

 

営業力に絶対の自信と動かぬ実績があるという人や、単著がある等という人は、さっさと独立すればいいと思う。私は、そんな人達にアドバイスできる人間ではない。

そもそも、そんな人達はもうどこかに行ってしまった。

 

それよりも、ある程度スキルに自信はあるが独立は未知の世界で、迷いながらも次のステップとして独立を選ぶ30歳ぐらいの制作・エンジニアの人達。

そんな人達の相談に乗ることが最近多かった。

そして正直、話していて「おい大丈夫か、やめておいた方が良いのではないか」と感じることが多かった。

なので僭越ながら、そんな人達に向けて、この記事を書いておきたい。そして次からは「まずこれを読んでくれ」と言うことにする。

 

独立しようとする人達は、まず今から自分が何をしようとしているのかを、冷静に見つめ直すところから始めるべきだ。

貴方はこれからデザインの仕事を請け負ってデザインをしたり、ソフトウェア開発の案件を受注してコードを書くのではない。 

 

貴方はこれから貴方の「事業」を始めるのである。

だから「個人事業主」なのだ。

感覚的にでも良いので、そこを理解していなければ、独立後に上手くやっていくことは難しい。

 

事業とは何なのか

「事業とは」でググると、「生産や営利を目的とした経済活動」という、もっともらしい定義が目に飛び込んでくる。また国税庁のHP には、「同種の行為を反復、継続、独立して行うこと」という定義もあったりする。

改めて定義を聞かされると「ふーん」といった感じで、どう理解すれば良いのかがイマイチ分からないはずだ。

ただ、この時点でどこにも「デザインをすること」「コードを書くこと」等とは書かれていない。事業とは、デザインをすることでもコードを書くことでも無いのである。

 

ではもう少し突っ込んで調べてみることにしよう。

ちょうど、クソ有名なピーター・ドラッカー様の著書を元にした記事が見つかった。

 

「我々の事業とは何か?」 (1/3):EnterpriseZineエンタープライズジン) : https://enterprisezine.jp/iti/detail/2455

 

事業の目的である顧客を創り出すためには、そもそも誰を顧客とすべきか、自社はどのような事業に集中すべきか、明快な指針が必要となります。顧客は大手法人顧客なのか中小法人顧客か、はたま個人顧客なのか、それらの顧客はどこにいて、何に価値を感じているのか、などです。

(上記の記事より引用)

 

ここでは事業の目的を「顧客を創り出すこと」と捉えている。「創り出す」って、どういうことだ?

詳しくは偉大なるピーター・ドラッカー様の著書に任せて割愛するとして、ここでは単純に「客を見つけて仕事をもらうこと」と言いかえよう。

(読めば分かるけど実は違う。今は便宜上、これでいい。)

 

これから独立しようとしている貴方には、客がいるだろうか?もっと言うと、「貴方の客」がいるだろうか?

いるとして、どこの誰か。どんな企業に属していて、何の仕事をしているか。何人ぐらいいるか。

フリーランスを続ける以上、客から仕事をもらい、その対価として収入を得続ける必要があるはずだ。その客は誰かという話である。

 

その客を見つけ続け、仕事をもらい続けること。それこそが事業の基本中の基本だ。

デザインだとかコードを書くだとかは二の次の話である。そもそも仕事がないと死んじゃう。誰にでも分かる道理だ。

 

客を見つけて仕事をもらうために

客を見つけ続けて仕事をもらい続けることが、貴方の事業の基本中の基本だ。

それをもう一段階、分解すると、「どのような客から」「どのような仕事をもらうのか」という話になる。

更にもう少し広げていくと、「そのような客に出会うために必要な活動は何か」「そのような仕事を捌くために必要なリソースはどれぐらいか」「いくらぐらいの報酬をもらうのか」というところまで簡単に行き着くだろう。

 

例えば、

  • 小規模なWEB 制作会社からWEB サイトのデザインカンプ制作の仕事をもらう
  • 広告代理店からアドクリエイティブ(バナー・LP 等)制作の仕事をもらう
  • システム開発会社からアプリケーションのフロント画面デザインの仕事をもらう

など、デザイン一つとっても客や仕事の内容は様々だ。

 

これらの「誰に?」「何を?」「どのように?」等を突き詰め、総合的な方針としてまとめたものが貴方の事業の「ビジネスモデル」となる。

ビジネスモデルは事業を順調に継続するために不可欠なものであり、意識的であれ無意識的であれ、必ず存在するものだ。

 

そこで、まずは貴方の事業のビジネスモデルを考えてみてはどうか。

「今から自分が何をしようとしているのかを、冷静に見つめ直す」とは、そういうことだ。

それは、そこまで難しい話ではない。

ここでは「ビジネスモデル・キャンバス」の力を借りて、貴方のビジネスモデルを考える手助けをしたいと思う。

 

ビジネスモデル・キャンバスで、貴方のビジネスモデルを考える

「ビジネスモデル・キャンバス」でググると、Google ショッピングの結果の欄に「ビジネスモデル・ジェネレーション」という書籍が出てこないだろうか。この書籍は、ビジネス書を読む多くの人が知っている、有名なものだ。

その書籍の中で紹介されている、

 

  • ビジネスモデルを客観的に俯瞰して見る
  • ビジネスモデルに対する考えを他人と共有する

 

ためのツールが、ビジネスモデル・キャンバスである。それ自体は何のことはない、ただの線が引かれた紙切れ一枚だ。

 

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※画像はここからダウンロードできるやつ

 

枠の中には、VP(価値提案)・CS(顧客セグメント)等のキーワードが記されており、要は「VP」の枠の中に「貴方が提案できるモノの価値とは何か」を書き込んでいき、「CS」の枠の中に「貴方が提案したモノの価値を認めて顧客になってくれる人のこと」を書き込んでいき…と、全ての枠を埋めていく。

すると、貴方の事業のビジネスモデルが段々と見えてくる、というような代物である。

 

これは、「絶対に儲かるビジネスを思いついたんだよ!」と息を荒げて扉を叩いてくる人間の夢を砕き絶望させるためにある「その事業・ビジネスは上手くいくかな?」ということを、ぼんやりと見渡して検討するのに役に立つツールだ。

私も仕事上、日々これを使っている。

 

それでは、枠の中に何を書き込めばいいのか、一つ一つ簡単に説明していこう。

 

ビジネスモデル・キャンバスの使い方

VP(価値提案)

例えば貴方がエンジニアとして独立することを考えているとしよう。

そこで貴方が貴方の客に提供できる価値とは何だろうか。それを書き込む枠だ。

貴方が提供するのはPHP のコードの塊か。そのPHP のコードの塊は、何の役に立つのか。他の者が書いたコードよりも高品質という価値があるか。高品質、の根拠とは何か。それとも、他よりも安価なのか。安価な上に高品質なPHP のコードの塊か。

いやいや、貴方が提供するのはコードの塊ではなく、エンジニアリングという技術的な課題解決そのものかもしれない。そしてそれは何の役に立ち、どのような価値があるのか…云々。

とにかく、思いつくだけ書き込んでいくといい。

 

CR(顧客との関係)

貴方は貴方の客と、どのような関係性を構築するのか。それを書き込む枠だ。

頼みやすい外注さんか。いざという時に頼りになるスペシャリストか。何でも教えてくれる先生だろうか。

そしてそれは、どれぐらいの距離がある関係だろうか。常に傍に控えているか。それとも、決まったところに行けば会える人なのだろうか。

個人的には、この枠を書き込む時に最も悩む。思いつかなければ、いったん飛ばして次にいこう。

 

CH(チャネル)

貴方は貴方の客を、どのような手段で見つけ、どのような手段でコミュニケーションを取るのか。それを書き込む枠だ。

ビジネス交流会で知り合い、名刺を交換するのか。その後は電話か、メールだろうか。Skype やAppear.in かもしれない。インターネット上で客を見つけるなら、どのようなサイトやサービス上で活動をするのが良いだろうか。その時に、どのようなファーストコンタクトが想定されるか。知り合いづてに客を見つけるなら、誰が貴方の客を紹介してくれそうか…などなど。

 

CS(顧客セグメント)

この記事の冒頭でも書いた、「貴方の客は誰なのか?」を書き込む枠だ。

それは小規模な制作会社か。中規模のシステム開発会社だろうか。大規模な広告代理店か。そういう会社の中の、どういう業務を担当している人間だろうか。どの部署にいて、何に困っている、何歳ぐらいの人間か。そういった人間は、貴方の手の届きそうな範囲に何人ぐらいいそうか。

マーケティング用語の一つに「ペルソナ」というものがある。この枠では、貴方の客のペルソナを作るつもりで具体的に書き込むと良い。

 

R$(収益の流れ)

貴方は貴方の客から、どのようにして、どれぐらいの報酬(金)をもらうのか。それを書き込む枠だ。

まず、成果物・納品物は何か。それにいくらぐらいの値段をつけるか。その根拠は。値段の相場はどれぐらいだろうか。客は、いくらまでなら払うだろうか。貴方は、最低いくら欲しいだろうか。どれぐらいのサイクルで、いくらの金が入りそうか。本当に、その値段に見合うだけの価値が貴方の成果物・納品物にはあるのだろうか。

金の話なので、最も書くことが多いかもしれない。私はいつも、この枠は小さすぎると感じている。

 

C$(コスト構造)

貴方が貴方の客にVP(価値)を提供し続けるために必要なコストとは何かを書き込む枠だ。

そもそもコストとは何だろうか。かなり乱暴に説明すると、VP(価値)を提供するために欠かすことができないヒト・モノの全てである。

例えば貴方がエンジニアとして独立するなら、そもそも貴方自身の存在が必要だ。貴方自身が手を動かす必要があり、それが要するに人件費と呼ばれる。次にマシン。エンジニアである以上、最低限一台はPC が必要だと思う。オフィスを借りる必要があるなら、その賃料。必ず使用する必要があるソフトウェアがあるなら、その使用料。

とにかく洗いざらい書き出してみて、中でも最もコストが高く重要であると思われるものに丸をつけておこう。

 

KP(パートナー)

貴方がWEB アプリケーションの開発を請け負うとして、営業~企画・提案~見積り~要件定義・設計~デザイン~システム開発~テスト・納品まで、その全てを貴方一人でこなすことが可能なら、極端な話、パートナーは必要ない。

しかし例えばデザインの知識・スキルがない場合、どこかからデザイナーを見つけてくる必要がある。そのデザイナーが、貴方のビジネスパートナーとなる。

他にも、そもそも営業が苦手である・分からないなら、営業が得意な誰かを探しに行き、その人に貴方自身のビジネスの営業を任せてみてはどうか。貴方に仕事を運んできてくれる営業マンは、立派なビジネスパートナーだ。

この枠は、VP(価値提案)を継続させるために欠かせないパートナーは誰かを書き込む枠である。

 

KA(主要活動)

VP(価値提案)を継続する上で、主要となる活動は何だろうか。それを書き込む枠だ。

それはPHP のコードを書くことか。それとも、技術的な課題解決か。いやいや、システム開発会社のマネージャーに対するコンサルティングなのだろうか。そもそも仕事を取りに行く、営業行為かもしれない。

毎日のように何をする必要があり、それがなくなれば価値を提供できなくなってしまうものを書き込んでいく。

 

KR(リソース)

貴方がエンジニアなら、リソースという言葉には人一倍、敏感なのではないか。

ここは、VP(価値提案)を継続する上で欠かせないリソースは何かを書き込む枠である。

それは貴方自身の時間であるかもしれないし、大規模な開発を請け負っていきたいのであれば、もはや貴方だけではなく、KP(パートナー)のリソースの方が大事かもしれない。それらのリソースをどうやって捻出し、常に確保しておくのか。その障害となり得るものは何か。などなど。

 

枠の説明については以上だ。

 

ビジネスモデル・キャンバスもまた、銀の弾丸ではない

ビジネスモデル・キャンバスが埋まったら、改めて全体を見渡してみよう。

各項目同士が矛盾していないか、そもそも無茶苦茶なことを書いていないか。

 

大切なのは、大きな理想や現実的ではない希望を書かないことである。

こうであればいい、こうあるべきだという内容を書き込んだところで、ビジネスモデル・キャンバスは何の役にも立たない。それは絵に描いた餅、そのものだ。

 

そもそもビジネスモデル・キャンバスとは頭の中を整理し、冷静な検討を進めるための手助けになるツールでしかなく、それ以上でもそれ以下でもない。

書き込むだけで魔法のように素晴らしいビジネスモデルが出来上がるなら、皆がこれを使うだろう。

ビジネスモデル・キャンバスを見渡して、「あれが足りない」「これが必要だ」ということに気づくのは、貴方自身だ。

 

ただし、ここまで書き出してみると、何も分からないまま進めるよりは、随分と不安が薄まるのではないだろうか。

「何が不安か分からないので不安」という状態から、「これが不安要素である」という状態までは行き着くことが可能だと思う。

次は「その不安要素をどのように取り除くか」を考えれば良い。

 

自信があるなら何も考えずに今すぐ独立すればいい

ここまで散々「冷静になって検討しろ」という旨を繰り返しておいて、最後にそれかと思われるかもしれないが、自信があるならこの記事のように小難しく胡散臭いことは放っておいて、明日会社に辞表を提出すればいいと思う。

 

正直に言って、私が独立する前、こんなことは殆ど考えていなかったし知りもしなかった。知り合いの優秀なフリーランスのデザイナー・エンジニアも、実はそういう人が多い。

私は、その「自信(適切な)」こそ、銀の弾丸なのだと思っている。

 

この記事に書いたビジネスモデル・キャンバスを描く上での考え方は、その殆どが独立後に、いつかは直面する問題と直結している。

それを先に知っておくか知っていないか、だけの違いであって、それよりもフリーランスに求められるのは「仕事がなくなったらどうしようかな」という不安と永遠に戦い続けることができる胆力なのだ。

 

不安は永遠に無くならない。

しかし自信をもって打ち消すか、冷静に整理することで軽減することはできる。

 

この記事がその助けになれば幸いだ。