ろくでもない熱海で金目鯛を食べるために旅行してきた
「美味しい金目鯛が食べたい」
この一言から始まって、それだけのために何故か熱海に来た。
最初は「金目鯛といえば下田では?」という話だったんだけど、既にGW 中なので下田に良い宿が取れそうにない。(日帰りは嫌だ。)
熱海なら宿が無数にあるので、まだギリギリ取れそうだという状況で、もはや面倒なので熱海でいい、熱海までにしておこうということに。
熱海から下田は近い、それなら熱海でも美味しい金目鯛が食べれるんじゃないの?という算段だった。
熱海といえば不倫である。
いわゆる「ワケありのカップル」が多く訪れる温泉地のパブリック・イメージとして、熱海の右に出る温泉地は地球上に存在しない。
あと、ろくでもない文豪が、ろくでもない理由で訪れて何かを書いたが書き切らずに後にした地、という印象が強い。これは学生時代に読み漁った文献により得た知識(偏見)だ。
語弊が多いようで非常に申し訳ないけど、熱海は「ろくでもない街」なんじゃないか。
ろくでもないのは不倫と文豪であって、熱海ではないが。
ろくでもないけど、だからこそ皆に愛される、みたいな。
安易ですね。でも本当にそういうものでしょう。
当日、8時には起きるつもりが、前日に飲み過ぎたせいで9時30分に起きた。
この時点から既にろくでもない。待ち合わせ相手を1時間以上、待たす。かなり怒られる。
しかし、熱海は東京から近い。めちゃくちゃ近い。
新宿からロマンスカーで小田原まで一時間。小田原から乗り換えて20分ぐらいで熱海。こんなに近かったんだ、と拍子抜けした。海老名から大手町まで頑張って通勤します、という感じだ。
箱根・日光・草津などのメジャーな温泉地には行ったことがあるけど、熱海だけは今まで一度も来たことがなかった。体感的には、熱海が一番近く感じたかもしれない。
ー 熱海駅前の様子。写真中央の奥に足湯がある。
熱海駅は綺麗だけど、駅を出ると古いビルがロータリーを囲んでおり、ちょっと違う意味で歴史を感じさせる風格がある。
そこから伸びている商店街を下っていく。神戸のような、入り組んでいる細い坂道が続く。お土産屋さんに並んでいるのは、干物。アジや海老の干物が目立つ。
あと、温泉饅頭。熱海名物と書いてあるが、それは草津でも箱根でも見たぞ。そもそも温泉饅頭って何なのか。
生地に温泉水を使うこと、または蒸しの過程で、温泉の蒸気を使うことから付けられたとされるが、ふっくらした生地を作るのに適した重曹成分や、蒸しに適した高温の蒸気が確保できる温泉は限られており、多くは単なる土産物としての饅頭である。 つまり、温泉地で作っているか、売っていれば「温泉饅頭」と呼ばれるようになった。
「多くは単なる土産物としての饅頭」「温泉地で売っていれば」って、元も子もないな。ろくでもない饅頭だ。
熱海駅から15分ほど坂を下ると、宿が密集していて小さな店や飲み屋も沢山ある地帯に出る。この辺りまで来ると、見えはしないが海が近いことが分かる。海の匂いがする。
とにかく海を見ましょう、海を見ないと心が落ち着きませんということで、宿に荷物を置いて即、海を目指す。5分もかからず、かの有名な「熱海サンビーチ」に出た。
何度もテレビや雑誌で見たことがある、めちゃくちゃ既視感のある光景が広がる。
ー 宿から徒歩5分のマリーナ。船の群れの向こう側が、砂浜になっている。
そのまま船が停泊しているマリーナを散歩する。
ここに停泊している船のオーナーは、船を停めているだけで毎月100万円ぐらい払うという話を聞いた。年間じゃなくて、月間ですよ。金持ちの気持ちは分からん。
ところで、この辺りから海を見ても、なんだか「海が遠い感じ」がする。
手前に船があるからか、堤防が何重にもあるからか、海が向こうにあって海に来た感が薄れている気がする。遠くまで見渡せる感じ、要するにU2 のアルバムの「No Line on the Horizon」感が薄くて満足できない。
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「もっと海を近くに感じたい」
我々は自然と一体となることに飢えていた。俗に言う、ナウシカ症候群だ。
「あっちまで歩けば海が目の前なのでは?」
ということで、後楽園ホテルやニューアカオがある方面を目指して歩く。海を正面にして、右手の方ね。思ったより遠くて疲れたけど、後楽園ホテルを過ぎた辺りで念願の海を感じることができた。
ー 熱海サンビーチから後楽園ホテルまで歩く途中。写真中央左の高い建物が後楽園ホテル。写真中央右上に小さく写っているのは熱海城。
ー 後楽園ホテル近くの堤防から、念願の「No Line on the Horizon」。写真右奥は離島の初島。
ここで、ようやく気づいた。何か忘れてないか?
金目鯛である。
起きてから適当にしか食べておらず、もう16時なので腹が減った。もはや後ろに見える後楽園ホテルで何でもいいから食べたいと思ったけど、さすがに我慢して宿の近くまで戻る。
通りには、思っていたより金目鯛を押している店が見当たらない。
そもそも熱海に金目鯛を食べに来るとか聞いたことないし。無理があったか、と思った矢先に一軒だけ、「下田から直送した金目鯛」を猛烈にアピールしている店を見つけて、そこに入った。
有名な老舗の洋食屋「スコット」のすぐ近くにあり、ユーミンが延々と流れている、喫茶店のような内装の料理屋「石廊庵」。メニューには金目鯛の煮込み・刺身・丼など、割と金目鯛オールスターな感じ。願ったり叶ったりだ。
金目鯛の炙り丼を食べた、普通に美味い。圧倒的じゃないか。熱海でも美味しい金目鯛が食べれるのだ。このお店は席も広いし、接客も良いし、生ビールはキリンラガーだし、何も不満がなかった。
ー 金目鯛の炙り丼。
金目鯛は真鯛とは違う、何か独特な風味があって好きだ。
ごく稀に魚屋さんとかで見かけると全く目が金色じゃないので「全く目が金色じゃないじゃん」と突っ込んでしまうんだけど、それ以前の問題で、この魚は鯛ですらないのだ。「キンメダイ目キンメダイ科に属する深海魚」らしい。
ずっと鯛の仲間だと思ってたのに。我々は何を食べているんだろうか、という気分になる。しかし美味いので、結果的には何でもいい。
海を見て、美味しい金目鯛を食べて、心も体も満たされた我々は「もう東京に帰っても問題ない」状態だった。
強いて言えば温泉。せっかくだから温泉にでも入るか。かの徳川家康も訪れたという、日光亭の大湯に浸かるのだ。
ー 日光亭の大湯。少し坂を上った所にある。
宿で「徳川家康が入った湯がある」という案内を受けてから、正直言って興味津々だった。これが北条早雲とか今川義元という話なら全く興味がないが、あのホトトギスが鳴くまで待った徳川家康である。
実は熱海には源泉かけ流しの湯が少なく、日光亭は数少ない源泉かけ流しの湯、とのこと。
「源泉かけ流しって、要するに『100% 果汁の生絞り』みたいな感じっすよね?」
という馬鹿みたいな私の質問に対して、宿の人は怒らずに「湧き出た水をそのまま浴槽に注いで、溢れるに任せていること、溢れた水や使った水を浴槽に戻さないこと」みたいな説明をしてくれた。
なるほど。そういうことなら、「かけ流し」より「たれ流し」の方がしっくりくるんだけど。「源泉たれ流し」だと心象が悪いのかね。
ここの露天風呂は、もの凄く快適だった。広くて湯加減も熱過ぎずヌルくもなく、じわじわと体の芯から温まる感じだ。
これは今まで入ったことがある露天風呂の中でも、確実にトップ3に入る。(他の2つを覚えていないけど。)
施設内には休憩室のような広い畳の間があって、風呂上りに缶ビールを飲みながらゴロゴロできるのも良い。もはや宿に帰らずとも、この畳の上でこのまま眠れればよくないか?と、私以外の多くの客も同じことを考えているはずだ。
日光亭は20時で閉まってしまうので、仕方がなく宿に帰ってテラスで引き続きダラダラと熱海ビールを飲んでいたんだけど、ツマミを買い忘れてビールしか食うもんがない。
ちょっと早いけど、もう飲みに出てしまおうということで、一軒目はローカル感が半端ない焼き鳥「万楽」。
夫婦で経営されていてパイプ椅子のカウンター10席ぐらい、あまり観光客は入らなさそうだけど、話を聞いてみると半々ぐらいの割合だそう。
ネーミングを見ただけで頼まずにはいられない、しっかり黒コショウが効いた「ももクロ串」が、とても酒に合って美味しかった。他にもカレー粉がかかった串が何種類かあったりタイ料理っぽい「トムヤン」とか三種類の蛇を混ぜた「三蛇酒」とか、ベーシックなメニューの間に所々おかしなものが並んでいる。けど、大体が美味しい。
ー 焼き鳥の万楽。
熱海で店をやっている人達は特に、その多くが「どこから来たの?」「明日はどこに行くの?」と、観光客に対して優しく接客してくれる気がする。あくまで体感なので、たまたまだろうけど。
なんだか他の温泉地よりも観光客に興味を持って、もてなそうという精神が強いのでは、と感じることが多かった。
金目鯛の「石廊庵」でもそうだったんだけど、「万楽」の女将さんも、とても良い人。また来たくなってしまう感じだ。
で、二軒目。
「万楽」のすぐ近くにあるオーセンティックバー「ドクタースマグラー」。
ここは事前に調べていて、何となく入るしかないと思っていたバーだ。
実際に行ってみると、入りやすくマスターも気さくな方で、期待を上回る良い店だった。
ー 「ドクタースマグラー」の酒棚
もともと銀座で有名だった先代(先々代?)のオーナーが、1979 年から熱海でやっている店らしく、4段の酒棚がガチなオーラを放っている。都内から定期的に訪れる客も多いという話。
ここも夫婦で経営されている感じで、マスターの奥さんがよく話しかけてくれ、美味しい店の情報をいくつも聞くことができた。
曰く、伊豆で美味い魚が食べたいなら初島に渡るべき。初島なら「漁師の料理」が食べれるので、それが一番とのこと。
30年も熱海に住んでる人の言うことには素直に従い、次は必ず初島に渡ります。
あと印象に残ったのが、「熱海にはワケありのカップルが少なくなった」という話もしてくれて、客層が若くなり、特に女性の一人旅が増えたということだ。
ろくでもなくない。もう全然、ろくでもなくないじゃないか。
ろくでもない人間が減るのは良いことである。バーにとっては商売上がったりかもしれないが。
このバーはかなり良い店だと思うんだけど、値段は普通。というか、このレベルのオーセンティックバーにしては少し安めかもしれない。
思い立って唐突に熱海に来た割には、ここまで選んだ店はどれも正解だった。
(われわれはかしこいので。)
12時前には店を出て、夜の通りを散歩しつつ宿に戻り、枕投げをするなどして寝た。
ー いかにも温泉街っぽい 「ゆしま遊技場」。
ー ろくでもなくないと思った矢先、ろくでもないやつを見つけた。
ということで、次の日も少し旅は続くんだけど、既に4500字以上ぐらい書いてて面倒になってきたしキリが良いので終わりにします。
残りを箇条書きにすると、
- オーシャンビューの喫茶店「サンバード」が良い
- 正直、アジの干物の方が更に美味かった
- お土産は普通に「伊豆の踊り子」が無難で美味しい
という感じだろうか。もう一軒、温泉に入ったんだけど普通だったので書かないことにする。
熱海、ろくでもなくなくて最高です。