フロントエンドエンジニアは安い・速い・高品質という夢の時代の中で、その価値が問われている
その昔、WEB のフロントエンド・HTML 制作とは、安かろう・悪かろうだった。
「安くて」「速い」までは、色んな制作会社やフリーランス、オフショアと呼ばれるアジア諸国のリソースが実現していた。
そして、それらの現場から上がってくるHTML を見ると、セマンティクスもカスケーディングもクソも無く、JavaScript はLint エラーばかりで、動いているだけ。
指示書の読み落としや、ブラウザ対応が甘すぎる成果物が、とても多かったように思う。
しかし現状は、というと。
「安くて」「速くて」「高品質」なリソースが、その辺にゴロゴロ転がっていると感じる。
特に中国・インド周辺のオフショア勢力が実力をつけていくスピードには、本当に驚かされる。
国内のWEB フロントエンド制作の界隈では定期的に、「海外に仕事を奪われる」「AI に仕事を奪われる」という話が盛り上がってきた。
かくして、「安くて」「速くて」「高品質」をアジア諸国が実現しつつあるので、そろそろ本当に時代が変わると感じている。
今回は、そんな感じの話を、あくまで肌感で書き殴っていきます。
目次
貴方は誰ですか(nico0927 について)
結局どういう職場で、どんな立場で働いていて、こういうことを感じているのか?は大事だと思うので。
私は30~40人規模の制作会社のような何かに所属していて、今はフロントエンドエンジニアのチームのマネジメントをやっている。
その前はディレクターのチームのリーダーだったり、入社前はフリーランスのWEB 屋だったりした。詳しいことは、この辺の記事に書いた。
割合として、7割ぐらいが受託制作。LP やらサイトやらアプリやら、まあ色々と案件はある。ちなみにWEB が殆どで、それ以外は少ない。
それらの案件のフロントエンドに関わる提案や要件定義、難易度の高いコードの実装・チームのマネジメントや環境整備etc...が主な仕事だ。
もちろんリソースが足りなかったり、社内でやる意味なくねっていう案件とかを、外部のパートナーさんに手伝ってもらう事も多い。
そこで国内の制作会社さんやフリーランスさんに加え、アジア諸国に拠点を置く方々などと、複数のお付き合いがある。
そんな毎日を送っていて、冒頭で述べたようなヤバさが、もう本格的にヤバくなってきたなと、感じているのである。(語彙…)
どれほど安く、どれほど速くて、高品質か
安さについて
例えばデスクトップ表示時に8,000~10,000px 前後の1ページのLP で、ブレイクポイントが2つ・レスポンシブWEB デザインとする。アニメーションが少々、モーダルとかカルーセルとか一般的な機能の実装も少々。
こいつを仕上げてくださいませんかとAI なりXD なりと仕様を共有すると、
- 国内の制作会社(中規模・都内) ⇒ 80,000~140,000 円
- 国内の制作会社(小規模・地方) ⇒ 60,000~100,000 円
- 国内のフリーランス ⇒ 40,000~120,000 円
- 海外のオフショア ⇒ 20,000~40,000 円
になりまーす、という具合に見積りを頂く。
基本的に、アジア諸国のオフショア勢力が国内のリソースよりも高いということは、これまで経験がない。
例えやすかったからLP を例にしただけで、サイトだろうとアプリだろうと同じようなもんである。
まあ、この圧倒的な価格差については何年も前からこんな感じなので、そこまで驚かない。
速さについて
次に、制作それ自体のスピードに関しては、どこにお願いしても、そこまで大差ないように思う。
ただしコミュニケーションのスピードに関しては、これまたアジア諸国のオフショア勢力の方が総じて速い印象が強い。
常に貼り付いているのではないかと思うほどチャットやメールのレスが速いし、そもそも日本語に不自由さを感じることが殆ど無い。
これは仕事を依頼する側にとっては非常に有り難いことだ。
たぶん仕組みの問題で、大抵の場合はブリッジエンジニア等と呼ばれる日本語が得意な人が窓口をしてくれるんだけど、彼らがよく教育されている。
そして、彼らがブリッジ(橋渡し)の業務に集中できるような環境が整っているのだろう。
ちなみに、たまにブリッジエンジニアとのコミュニケーションが捗らない場合、今度はすぐに国内の日本人がフォローに回る体制が出来上がっていたりする。
ということで最早、国内であろうとアジア諸国であろうとコミュニケーション面の満足度が変わらないという場合が多い。
わざわざ海の向こうから日本の仕事を請けようというのだから、真っ先に問題となるであろうコミュニケーション面の課題を解決することに、彼らが心血を注ぐのは当然ということだ。
品質について
そもそもWEB フロントエンド制作における品質とは、なんて話をし始めると、それだけで10,000 字ぐらい書けてしまうので、いったん一言で片付けたいと思う。
もう殆ど、国内とオフショア勢力の間に、差がないように感じる。
なので、やばたにえん。
冒頭にも書いた通り、昔は明確な差があったと思うのだ。それを感じないというだけで、もう十分な気がする。
なので、正しく言うと「比較的」高品質ということか。
まず、ケアレスミスや指示の読み落としが少ない。
深くコミュニケーションを取らなくとも、テキストで指示内容を理解してくれるし、いわゆる「よしな対応」のサジ加減も悪くない。
こちらの不足により発生してしまう行間を、ちゃんと読んでくれている、という安心感も感じる。
この辺りはモロに、ここ数年で彼らが積んだ経験値がモノを言っているのだろう。
そしてソースコードを見ている限り、HTML の文章構造、JavaScript の設計、表示速度や運用効率への配慮だって、声を荒げて文句を言いたくなるような品質ではない。
細かいところを言い始めるとキリがないので、やっぱり、国内のリソースと差を感じないという結論に落ち着く。
戦い慣れたフロントエンド界隈に戻ってきて、この現状に気づいた時、私は素直に「勝てるわけ無いだろ(ビジネス的に)」と思った。
安くて、速くて、品質が良いのだ。そんな夢みたいな話があるか。
まるで走攻守の三拍子が揃ったイチローみたいじゃないか。
国内の現状
技術的には3~4年ぐらい前から仮想DOM の波が押し寄せ、React とVue がスタンダードとして定着し始めてきた国内のフロントエンド界隈。
昨年からPWA がバズワードとなり、とにかく快適なブラウジングを追求していく流れが加速している。
この辺りの最新技術を用いて実装された成果物は、どこが作っても品質に大差がないと、今のところ感じている。
これは最新技術だけにベストプラクティスが存在していないか、非常に分かり辛いからではないだろうか。
要するに、最新技術どうこうという話ではないんすね。
だったら安い方に軍配が上がるのはビジネス上、当たり前だ。
そしてこの「安い」の部分は、経済圏の違いによる人件費の差なので、国内のフロントエンド界隈がどう頑張ろうと埋めることに限界がある要素だと思う。
それなら、「速い」「高品質」が残るけど、制作期間それ自体のスピードには現時点で大差が無いということで、あとは「高品質」しかない。
結局のところ、10,000字ぐらい書けてしまう品質の話をせざるを得ないということか。(しないけど。)
フロントエンドエンジニアの価値とは
WEB 制作におけるフロントエンドエンジニアとは、本当にPC とネットワークとスキルさえあれば、どこでも誰でも開業できる職種だな、というのを改めて考えさせられる。
それは要するに、「特に」海外との競争に巻き込まれやすい環境で仕事をしているということだ。
例えばディレクターやデザイナーは、フロントエンドエンジニアに比べると、より人・場所に左右される環境で仕事をしていると感じる。
より顧客と繋がっている彼らは、単純にバイネームで仕事を取りやすい。そしてデザインには「その国の文化」が深く関わってくる。(例えばフォント。海外のデザイナーが日本語のフォントを上手く扱えるだろうか。)
しかし特に受託制作におけるエンドクライアントは、
- ディレクター ⇒ ともに課題の解決方法を考えてくれる人
- デザイナー ⇒ 課題を解決するためのデザインをしてくれる人
- フロントエンドエンジニア ⇒ フロント…何だって?何をするの?
- バックエンドエンジニア ⇒ プログラミングする人かな?
程度の理解しか無いのが現状である。
これはエンドクライアントではなくクライアント、つまり直接フロントエンドエンジニアに仕事を発注しコミュニケーションを取る人間から見た場合でも、
- フロントエンドエンジニア ⇒ なんか知らんけど凄い頼りになる人
せいぜいこんなもんが大半だと思っている。
彼らはフロントエンドエンジニアが欠かせないことを知っている。しかし「なんか知らんけど」なのだ。
フロントエンドエンジニアリングの価値とは何なのか?
いったい、何故、フロントエンドエンジニアが「なんか知らんけど凄い頼りになる」んだ?
その価値を言語化し、周囲に啓蒙することを、我々は怠ってきたのではないだろうか。
こんなもん、国内だの海外だの以前の問題である。
もちろん、フロントエンドエンジニアという職種それ自体が、デザイナーに比べると遥かに若く、歴史が浅い。なので、仕方ないと言えば仕方ない。
ただ事実として、フロントエンドエンジニアリングの価値は、フロントエンドエンジニア以外の人間にとって、あまりにも知られていない。
それは物凄く、ビジネス上、価値があるものなのに。直接的に数字を動かすことができる可能性を持っているのに。(少なくとも私はそう信じている。)
話が脱線しかけたけど、要するに現状のフロントエンドエンジニアは、アジア諸国との競争を避けようがない。そしてアジア諸国は価格面において、圧倒的に優位だ。
もう競争を避けようがないことは前提として、ではどのようにしてフロントエンドエンジニアとして成長し、生き残っていくか。
そのヒントが「フロントエンドエンジニアリングそれ自体の価値」にあると、私は思っている。
それ自体を見つめ直し、定義して、啓蒙し続けていくこと。
そんな記事をこれからも、いくつか書いていきたい。
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