WordPress を導入する前に、人間は怠惰で弱い生き物であるという事実と向き合った方が良い
WEB 制作を生業としてきた私にとって、今日までWordPress という単語を見かけない・聞かない日は無かったというほど、このCMS は業界内での確固たる地位を、順調に確立し続けてきた。
実は私は、フリーランスだった3〜4年ぐらい前に、もうWordPress は終わると勝手に思っていた。
「かちびと.net」や「Web デザインレシピ」といったWordPress のハウツー記事を配信するブログが隆盛を極め切り、Jekyll やMiddleman といった静的サイトジェネレーターが再び注目され始め、そこにGhost が登場してきた頃の話だ。
しかしWordPress は死ぬどころか、感覚的には増々その勢いを増していった。
この実感には当時の私の無知に加え、どちらかといえば受託制作の現場で過ごす時間が多かったことも影響していると思う。
今では顧客がWordPress の存在を知っていて、「WordPress でメディアを立ち上げたい」という類の相談が、本当に毎日のようにある。
そして本当に毎日のように、
「まずはWordPress 前提である理由があれば教えて頂けませんか?というか何故メディアを立ち上げたいのでしょうか。」
という問答が始まる。
…正直に言って、私は飽きている。
まず、WordPress で構築したメディアを立ち上げ、いわゆるオウンドメディア・コンテンツSEO・インバウンドマーケティングうんたらかんたらが成功した事例を間近で見た記憶など、片手で数え切れるほどしかない。
これには勿論、私の力不足もあっただろう。初心者だった私はWordPress で作りたいと言われればWordPrees で作った。
そしてWordPress を通して、WEB デザイナーだった私はPHP の基礎を学び、サーバサイドの経験を積んでいくきっかけができた。
すみませんでした。そして、ありがとうございました。良い勉強になりました。私はWordPress が大好きですが、それと同じぐらいWordPress を憎んでいます。
ということで、今回はWordPress を導入する前に本当に考えるべきことの、お話である。
目次
- WordPress は配信スピードを上げ、運用コストを下げるのか?
- 人間は怠惰で弱い生き物である
- WordPress の運用コストは高い
- 顧客が本当に必要だったもの
- WordPress の導入ありきのプロジェクトと残骸の山
WordPress は配信スピードを上げ、運用コストを下げるのか?
いわゆるコンテンツマネジメントシステム、CMS の導入が顧客にチラつかせる表面的なメリットとして、
という認識がある。
これはべつに嘘ではなくて、確かにWordPress の管理画面から文字を打ち込んで公開すれば配信できるし、何百万も払ってシステム開発をするよりはWordPress を導入する方が安価なのは事実だ。
そして、
- 自分達が更新できればガンガン記事を上げれる ⇒ 配信スピードUP
- 自分達が更新できればプロに頼まずに済む ⇒ 運用コストDOWN
というところまでは想像に易い。
しかし本当にそうなのだろうか?
配信スピードに関しては、短いニュースなどの速報を毎日ガンガン上げるのであれば、確かに上がるだろう。
そんなものをいちいち制作会社に依頼するだけで精神が病むというのは、もっともな話だ。
しかし例えばメディアの記事のように1500〜3000字で画像を含むようなタイプに関しては、それを配信する頻度に依る。
毎日配信するというのであれば、WordPress 導入で良い。しかし、せいぜい週に1〜2本ぐらいのペースであれば、どうですかね…という感じになる。
ともかく、WordPress を導入することで本当に配信スピードが上がり運用コストが下がるのか、今すぐ厳密に計算し直したほうが良い。
ちなみに完全な肌感だけど、その事業に初期投資できるのが2〜300万のレベルなら、その時点でWordPress は考えものだ。
何故か?
- 人間は怠惰で弱い生き物だから
- WordPress の運用コストは高いから
である。
人間は怠惰で弱い生き物である
何が言いたいかというと、計画通りに記事が書ける人間など殆どいない、ということだ。
多くの人間は計画通りに物事を進めることができない。
毎日配信すると計画していたものは大体が週に1〜2本になる。週に1〜2本ぐらい配信すると計画していたものは、大体が月に1〜2本になる。
そして更に悪いことに、配信した記事が思うように読まれない。
こういったものはすぐに効果が出にくいので、人間は不安になる。多くの人間は信じる強さを持たない。
そこで、もちろん決済者も不安になる。何をやっているんだ?そのコストは何の成果に繋がっているんだ?やめてしまえ、というわけだ。
(誰が決済を出したんだ…?という疑問を口にした瞬間、貴方もWordPress とともに死ぬことになる。)
これがWordPress によって明らかになった人間の怠惰と弱さだ。
WordPress はオウンドメディア・コンテンツSEO・インバウンドマーケティングうんたらかんたらと叫ぶ人間の群れに対して「お前は怠惰で弱いんだぞ」という事実を突きつけた。
そもそも人間達は、記事を配信するという行為を軽視し過ぎている。
ライターをアサインして金を払えば何とかなるのは石器時代の話。
今は戦国時代だ。世界中の猛者が血で血を洗う戦いを繰り広げているんだぞ。
WordPress の運用コストは高い
まあ具体的に何と比較してという話では無いんだけど、WordPress だって立派なPHP の塊なので、少なくとも運用コストは低くない。
基本的なLAMP 環境を用意して保守する必要があるし、WordPress 自体が頻繁にアップデートを繰り返すので、厳密に言えばいちいち検証する必要がある。
要するにフルスクラッチでシステム開発した場合と大して運用コストが変わらないのだ。
むしろ、それより悪い場合がある。
WordPress は、けっこう頻繁に壊れる。
とにかく普通にバグるし、バグると素人では解決し辛いので、結局はプロの手を借りざるを得ない。
そういうわけで、最低で5万円~高いと50万円レベルの保守・運用費用を払っているケースなんかが割とあったりする。
そもそも保守・運用費用を提案しない制作会社もあるんだけど、それはそれで大丈夫かという話だ。
また特に大きな企業では、セキュリティ的な懸念からWordPress の導入を躊躇った結果、StaticPress 等を使って静的な配信を試みようという流れになることも多い。
そんなことをしているとサーバは二台になるかもしれない。そうするとコストは…。
余談だけどStaticPress は頼むから勘弁してくれ。wget してrsync でもする方が、まだマシ。
顧客が本当に必要だったもの
では、顧客が本当に必要だったものはWordPress では無く、何だったんだろうか?
それは例えば、こんな感じ。
- 圧倒的な情熱
- 圧倒的なリソース
- ブログサービスと組織された編集部
A. 圧倒的な情熱
オウンドメディア・コンテンツSEO・インバウンドマーケティングうんたらかんたらを成功させるために一番あれば良いと思うものは、圧倒的な情熱である。
こんなもんは完全に当たり前の話で、べつにWordPress どうこうという話ではない。
例えば心底カレーを愛していて、毎日カレーのことばかり考えている人間を放っておくと、勝手にブログを始めて毎日カレーに関する情報を発信しまくり、数年後には業界の人気者となってカレーの本を出版していたりする。
だからはっきり言って圧倒的な情熱さえあれば、WordPress すら必要ないし、はてなブログでも何でも使って情報を発信すればいいじゃんで話は終わる。
しかし、このような大前提が忘れられがちなので書いておいた。
B. 圧倒的なリソース
それはもう圧倒的な金があり、人があり、土地があれば(べつに土地は必要ないかもしれないが)、オウンドメディア・コンテンツSEO・インバウンドマーケティングうんたらかんたらも大成功だ。
これまた完全に当たり前の話で、べつにWordPress どうこうという話ではない。
しかし、このような大前提が忘れられがちなので書いておいた。
※すごい投げやり
C. ブログサービスと組織された編集部
はてなブログでもライブドアブログでもWordPress.com でもWix.com でも何でもいいんだけど、それじゃあ駄目なのか。
殆どのサービスは独自ドメインに対応していて、圧倒的に安価にスタートでき、デザインだって割と思い通りになる。
もちろん、ずっとそのままで良いとは言わない。利益が出てきたところでWordPress の導入を検討すれば良いと思う。
そして、圧倒的な情熱もリソースも無いのであれば、限られた初期投資の中で作るべきは編集部だ。
編集部が何かというのは面倒なので調べて欲しいんだけど、べつに最初から何人も引っ張ってくる必要はないし、何なら一人でも兼任でも良い。
大事なのは良質なコンテンツを安定して生み出すことができる仕組みそのもので、WordPress でもライターでも無いのである。
冷静に考えれば当然なんだけど、WordPress とは情報配信の手段でしかなく、手段であるWordPress 前提で話が進むのは明らかに間違っている。
しかし怠惰で弱い人間は、WordPress があれば何とかなると思い、予算の大半をWordPress に突っ込みたがる。
そうではなくて、どのような情報を誰に向けて何時どれぐらい配信するのか、そしてその情報を生み出すのは誰なのか。そこにもっと、もっと予算を突っ込まなければプロジェクトは成功しない。
WordPress の導入ありきのプロジェクトと残骸の山
WordPress の存在が凄くメジャーになってしまった結果、何故か「WordPress の導入ありき」のプロジェクトが多く生まれては死んでいき、その残骸は山となった。
ろくなセキュリティ対策も保守もされていない残骸の山は、今日もWordPress を限定的に狙うボットの攻撃にさらされており、次から次へと乗っ取られていく。
WordPress はPHP やらApache やらといったサーバサイドに詳しくないWEB デザイナーレベルでも、とりあえず動かすことが可能なため、危ない状態で納品されているサイトが本当に多い。
WordPress が出来ると言えれば仕事が沢山あるので、怠惰で弱い人間はついついWordPress の仕事を請けてしまうのだ。
こんな感じで、私の大好きなWordPress は(あくまで結果的に)WEB 業界にろくでもない影響を与えた結果、残骸の山となって転がっている。
少なくとも私の目には、そんな風に見える。
人間は怠惰で弱い生き者だ。
それを象徴するかのように、WordPress の残骸の山が今日のWEB 業界に、そびえ立っている。