WEB ディレクターに本当に必要なスキルと、彼らは万能の神ではないということ

フリーランスに飽きて再び組織に属してから今日まで、私の仕事は分かりやすく言うとWEB ディレクター / プロジェクトリーダー等と呼ばれるものだった。

実際にはもっと色んなことをやっているが、対外的にはそんな感じ。

で、このGW 明けからは少しポジションを変えて働くことに決めたんだけど、その前にこの「WEB ディレクター」という呪われた素晴らしい職業についてまとめておきたい。

 

目次

 

背景

私が所属しているのは30人~規模の制作会社のような何かだ。他の制作会社よろしく、プロデューサーやディレクターやデザイナーやエンジニアがいる。

その中で私はしばらく、ディレクターチームのリーダーという立場で働いてきた。

ちなみに私は制作出身なのでデザイン~バックエンドの技術まで一通り持ち合わせていて、そこが強み。他にも企画が強みだったりマーケティングが強みだったりするディレクターがいる。

 

しかしまあ、ディレクションというのはなかなか難しいようだ。

経験が長いディレクターでも500万~以上の規模の案件となると納品手前で半炎上状態であることは珍しくない。

経験が浅いディレクターの場合、100万~ぐらいの案件でも簡単に炎上一歩手前になる。

(炎上がディレクターの責任というわけではなく、一般的には案件を持っているのがディレクターであり、それが炎上していたら彼らが炎上しているも同然と見なされるので。)

 

案件が炎上しかかると、その事後で「何故こうなるのか」という分析が入り、「そうならないためにはここでこうしておくべきで、こういうスキルが必要だから身につけよう」ということになり、最終的に「ディレクターに必要なスキル」の整備が図られたりする。

そうして出来上がるスキルセットというのは、例えば以下のようなものだ。

 

ディレクターに必要なスキルとされがちなもの

01. リーダーシップ
02. マネジメントスキル
03. コミュニケーションスキル
04. スケジュール・予算管理能力
05. 課題抽出スキル
06. アクセス解析の知識・スキル
07. 統計学の知識・分析スキル
08. Webマーケティングの知識・運用スキル
09. 一般的な広告・PRの知識
10. 企画力
11. ドキュメント作成スキル
12. プレゼンテーションスキル
13. インターネットビジネスの知識
14. 情報収集・活用スキル
15. Webデザインの知識・スキル
16. 編集・ライティングスキル
17. フロントエンド言語の知識
18. バックエンド言語の知識
19. デバイスの知識
20. 権利関連の知識
21. 経営関連の知識
22. 英語力・英会話スキル

決定版!Webディレクターに必要な22のスキル | マイナビクリエイター : https://mynavi-creator.jp/blog/article/skills-necessary-to-web-director

より引用

 

…アホなんだろうか。

 

多過ぎるし多岐に渡り過ぎている。こんなスキルを持った人間は見たことが無いし、一体これは何年かかったら身につく能力なんだろうか。

 

誤解のないように、私はこのリストを策定した人を批判するつもりは全くない。
それどころか、ある意味このスキルセットは正しいとすら思っているし、私も似たようなものを考えたことがある。

要するに、これが現実なのだ。 

 

制作の現場として多いであろう10~30人ぐらいの組織において、ディレクターに求められるスキルセットとは、こんな感じになることが多い。
特にこのリストの面白いところは「21. 経営関連の知識」が入っているところで、確かに必要なんじゃないかと思ってしまう。
直クライアントが中小企業で定例に取締役がいる、なんてことがよくあるし、小さい会社の中で案件管理をする上で経営関連の知識は多少なりとも欲しい。

 

もちろん、これら全てのスキルを完璧に習得することなど不可能で、これらの基礎を押さえていれば良いという話だとしても、それにしても多過ぎる。
これは「全てを勉強してください」と言っているのと大差なく、いわゆるジョブ・ディスクリプションとしても機能しないと感じる。
こんなものが中途のWEB ディレクターの採用基準になろうものなら、一人採用するのにいくら金をかければいいのか分からない。

 

整理されていないのだ。
分かっているつもりでも、まだまだ皆、手探りでWEB ディレクターをやっているに等しいのではないか。
 

何故こうなってしまうのか

何故こうなってしまうのかは分からん。

ただ、そもそも制作会社に求められる仕事の範囲が年を追う毎に増す一方であり、その制作会社の窓口は大体がディレクターだ。

しかしマーケティングだの、ライティングだのと言われても、多くの制作会社の社内にはデザイナーかマークアッパーかエンジニアしかいないんじゃないのか。

それらに当てはまらない内容をディレクターの業務に割り当てようとしても無理がある。

 

ほんの10年前ぐらいまでは、制作会社は「ホームページ」を作っているだけで飯が食えたという話をよく聞く。

しかし現在は、自社サイトで「高品質なホームページを作れます」などと謳っている制作会社など無い。あったとしても、潰れてしまった。

大抵の制作会社は最低でも「戦略立案からリリース後のPDCA 促進まで」というように全部面倒を見るようなPR をしている。

 

でも、実はいないんだと思う。というか少ない。

きっちりとWEB の戦略を立案できる人材や、PDCA を回せる経験のある人材が。

 

制作会社どころか、WEB・IT 業界まで視野を広げてみても、まだまだ人材不足だと感じる。

でも「ホームページ」を作るだけでは仕事がとれないので上記のようなPR をし、実際の戦略立案から運用計画まではディレクターにやらせるしかない。

WEB 業界はまだまだまだまだ若い業界なので、こんなもんなのではないか。 

 

しかしディレクターは必要だし育てる必要がある

そうは言ってもディレクターは必要だと思っているし、とにかく新人ディレクターを育てなければならない。

何故、必要なのかは長くなるので別の機会にするとして、ある程度のスキルセットは定義してやらないと、新人ディレクターが不安過ぎて夜も眠れないという話らしい。

 

新人ディレクターの皆さんは安心して欲しいんだけど、先に引用したような22 項目にも渡るスキルを全て習得しなくても、立派にディレクター業務を遂行することはできる。

(単なる経験則でしかないが。ははは。)

 

WEB ディレクターに本当に必要なスキル

「何故WEB ディレクターが必要なのか」を端折ったので少し書き辛いんだけど、先に引用した22 項目の中から、「これさえあれば」と思うスキルだけを抜き出してみた。

例えば自分が中途でディレクターを採用する時など、この5つを持ってて欲しいと思う。

 

  1. コミュニケーションスキル
  2. 課題抽出スキル
  3. 情報収集・活用スキル
  4. スケジュール・予算管理能力
  5. Webデザインの知識・スキル

 

5 つ挙げたけど、はっきり言って1. の重要度が群を抜いて高く、逆に5. はオマケみたいなものだ。一つずつ簡単にまとめる。

各スキルの具体的な話は面倒なので引用先をご参照ください。

 

1. コミュニケーションスキル

例えば営業が客の信頼を得るプロだとしたら、ディレクターは案件をスムーズに進めるために、客からも社内からも信頼を得る必要がある。

そして、信頼を得るために必要なのは「圧倒的な制作スキル」等ではなく、適切で迅速なコミュニケーションだ。

 

つまりディレクターは営業と同等か、それ以上にコミュニケーションスキルが高くなければならないと思っている。

ここで強調したいのは単に「上手くコミュニケーションを取る」という社会人の誰もが求められる能力ではなくて、その先に信頼を得て、安定した指揮・舵取り(ディレクション)ができる環境を作り上げる能力がディレクターには求められるということ。

 

そもそも初対面の人と話すのが苦手とか、上手くコミュニケーションを取れる手段が限定されるというタイプの人は、ディレクターに向いてない。

正直、前述の2. ~5. までを全て「コミュニケーションスキル」に書き換えても問題ないぐらい、コミュニケーションスキルが命だ。

信頼を得たディレクターは客を味方につけ、社内を巻き込むことができる。それほど強いディレクターはいない。

 

2. 課題抽出スキル

とにかく案件は課題の山だ。課題がなければ案件など存在しない。

そもそも抽出しなくとも客が、社内が、数々の課題をディレクターの机の上に積み上げていく。(そういう風に、できている)

 

問題は、誰かが「これが課題だ」と言うけれど、それが本当の課題ではないことが非常に多いという現実。

「これが課題です」と言われたことを鵜呑みにして案件を進めても、大抵の場合は上手くいかない。実は課題は別のところにあって大きくなっていくばかりで、それに気がついた頃には案件は炎上している。

なので、「何が本当の課題なのか」を紐解き、掘り起こすことができるスキルはディレクターにとって非常に大切だ。

 

3. 情報収集・活用スキル

WEB 業界は日進月歩で、先月に話題になった技術が今月にはもう古いなんていうことが日常茶飯事である。

それがこの業界の特徴の一つであり、だからこそWEB を冠するディレクターは、その動きについていける人材であることが望ましい。

最新技術は時に業界の外でも話題になり、下手をすると客のWEB 担当の方が詳しいなんてことすらある。

それだけでなく、いわゆる「検索スキル」のような、情報の探し方に慣れていなければ、多種多様な業界のWEB プロモーションを抱える立場にあるディレクター業務は難しい。

 

4. スケジュール・予算管理能力

まあ実務として、これをディレクターに求めない制作会社はないと思う。

そもそも制作の仕事に関わる以上はディレクターであろうとデザイナーであろうと、ある程度は抑えておくべきスキルの一つだ。

ただしディレクターに求められるのは案件全体のスケジュールをイチから組み立て、それを管理するという上位の能力であり、結局のところ組み立てるのも管理するのもコミュニケーションの積み重ねによって成されるので、本質的には1. と変わらないと思っている。

 

予算管理について、これが苦手なディレクターは様々な局面で弱い立場に追い込まれがち。

案件のゴールが何であろうとそれを達成できようが何だろうが、赤字が続けば元も子もなく制作会社が潰れてしまうので、こっちの方が重要度が高い。

 

5. Webデザインの知識・スキル

べつにWEB デザインに限らなくてもいいんだけど、それにしても「ディレクターは制作ができるべきなのか」という議論は、この業界の中で細々と続いている気がする。

私は最初「絶対に制作できるべき」と思っていて、あるタイミングから「やっぱり制作できなくてもよい」と考えを改めたが、最近では「やっぱり多少なりとも制作できるべき」と感じている。

 

ただ前述の通りこれは半分オマケのようなものであり、制作ができれば更にスムーズに案件を回すことができる、という程度のものだから、この5 つの中では一番優先順位が低い。

何といっても制作ができると、客と社内の両方から信頼を得やすい。それが正しいかどうかは置いておいて、そこに尽きる。

 

ディレクターは万能の神ではない

ここまで書いてきたように、私は例えば先に引用した22 項目をディレクターのスキルセットとすることは非現実的で不可能だと思っている。

特に、この数年「マーケティングスキルはディレクターにとって必要不可欠」と語られることが多いように感じているんだけど、何故そうなってしまうのか分からん。

 

「ホームページ」を作るだけでは駄目で、マーケティングやら運用プランやら何やらが大前提なのは理解できる、それは当然の話だ。

しかしそれら全てを「ディレクターの職能」に突っ込むのはおかしい。 

ディレクターにはディレクターがやらなくてはならない仕事がある。

  

じゃあ例えばマーケティングをやるのは誰か、どこからそいつを連れてきて、どのようにそのコストを捻出するかという話こそ、何とかしなければいけない課題だと思う。

 

そうでなければ、「弊社にとってディレクターとは万能の神であり何でもできるスーパーマンのことを指す」とだけ、募集要項に書いておけばいいのではないか。

 

追記:2018.01.31

この記事の続編を書きました。

nico0927.hatenablog.com